7月12日汐留FSスペースにて、映画「かぞくのくに」ジャパンプレミア試写会が開催されました。試写会を終了した会場はすすり泣く声があちこちから聞こえ、まだその余韻が残る中、主演の安藤サクラ、井浦新、ヤン・イクチュン、ヤン・ヨンヒ監督、プロデューサーの佐藤順子が登壇しました。
左からヤン・イクチュン、安藤サクラ、井浦新、ヤン・ヨンヒ監督
安藤「ちょうど去年の夏に撮影がありました。私はリエ役でしたが、本当のリエである監督の思いに答えようと、監督が映画で言いたかったこと伝えるために必死で演じました。今日はその映画のお披露目、特別な日だと実感しています」
井浦「やっとみなさんに届けることができて嬉しいです。去年の暑い夏の撮影でした。僕の役ソンホは、監督の3人のお兄さんを一つにしたような役です。監督の思いを受け止めながらその思いを良い意味で裏切りたいと思っていました。監督の想像を飛び越えるようにね(笑)。毎日安藤さんと兄弟の演じながら、監督と戦い続けた15日間でした。なかなかできない貴重な体験で、みんな本当の家族になったような気がします。映画をご覧になった皆さんの心にどんな思いが残ったのか伺いたいです」
ヤン・イクチュン「撮影から1年、このような日が迎えられ嬉しく思います。映画ではソンホを監視するヤン同志を演じました。私自身は善良な人です(笑)。本音はこの会場で皆さんと観たかった! 撮影現場ではリエとソンホをそばで見ていて、当時は本当にこうであったんだろうと、当時の気持ちを感じ取れる作品になったと思います」
ヤン・ヨンヒ監督「これまで『ディア ピョンヤン』『愛しきソナ』を撮り、日本映画として海外映画祭にも参加しましたが、日本映画と認識してもらえず、しかも、レンタルショップでは韓国作品や、海外作品の棚にあったりしました(苦笑)。やっと今回、日本映画として認めていただけた気分です。撮影当時を思い返すと、猛暑でした。スタッフ、キャストがみんなあせもになるぐらい情熱を注いだ作品です。私の実体験がモチーフになっていますが、それを超えた作品になったのではないでしょうか?実は私たち家族はどこか遠慮があります。もっと話したい、会いたいという感情を押し殺しているんだということを安藤さんと井浦さんの演技を見て思い知らされました。本人である私が隠している感情も表現してくれたと思います。それを引き出す演技をしてくれたのがヤン・イクチュンさんです。私自身も幸せすぎるキャスティングだと思っていましたが、世界中からもすばらしいと絶賛をいただきました。限られた低予算でありながら、ドリームキャストに恵まれたと言えるでしょう。映画は観客の皆さんにみていただいて初めて完成するものと思っています。今日はこの映画の日本での誕生日です。その誕生日を皆さんと迎えられてとても嬉しいです」
Qたくさんの朗報がとどいているそうですね。
佐藤プロデューサー「この作品はシドニー、スペイン、南アフリカ、スウェーデン、韓国、ロシアなどの国際映画祭に招待されています。そして、第10回パリシネマ映画祭で、ハートウィリングフィルム・オブ・ザ・ブロガージュリーを受賞し、モントリオール映画祭への招待、韓国での公開も決まりました」
ヤン・ヨンヒ監督「世界での公開も嬉しいですが、日本の次に韓国で公開が決まり、とても嬉しいですね。北朝鮮では難しいですが(笑)。海外の観客は大きな声で笑って、泣いて、長い感想文を送ってくださいます。私の腕をつかんで、自分の家族の話をする方もいて素直に反応してくださいます。政治的な理由で家族に会えない人たちが、世界中にこんなにもいるのかと思い知らされます。政治がどれだけ生活に影響を及ぼすものか、日本でも東日本大震災後、実感されたのではないでしょうか。日本の学校では習わないかもしれませんが、『帰国事業』というものがあったことを知って、何かを感じてほしいです」
Q同級生のスニがスンホに“逃げちゃおうか?”というセリフがありましたが?
ヤン・ヨンヒ監督「同級生のスニがスンホに“逃げちゃおうか?”というセリフがありましたが、ソンホは北朝鮮に妻子がおり、脱北となれば問題になりますから逃げない設定にしました。お互い逃げることができないとわかっているから軽く言えるセリフなんです。逃げる設定でも描けるのでそれは次回やってみたいですね」
井浦「スニは“逃げちゃおうか?”って言いながらも逃げられないことを理解しているんですよね。逃げるのも一つの手段ですが、それは英雄だけですね。実際国の妻子を捨てて逃げるにはそれだけの理由がいる。逃げることも簡単ですが戦うことを選んだほうが価値があるのではないでしょうか。この作品は家族をテーマにしているのと同時に自由を表現している作品だと思います。この作品が自由の概念を考えるきっかけになれば……。どうですか?サクラさん」
安藤「たくさんいろいろなことを考えて大人になっていきたいです」
ヤン・ヨンヒ監督「北朝鮮は自由がない国。日本は自由になるためにあがくことが許されている国。私自身はいつも自由を考えてきました。リエがこのまま年をとったらどんな女性になるか、よく安藤さんと話していました。私は在日とか、いろんな束縛から自由になりたくてあがいていましたが、自由とは遠くへ行くことでも、現実を見ないようにすることでもなく、向き合うことでしか得られないという思いにたどり着きました。それでこの映画でも自分が背負っているものと向き合っています。みなそれぞれに背負っているものがあるんだと思います。最後にリエがスーツケースを引きずっていくシーンがありますが、あれはソンホにいろんなところに行けと言われたからではなく、これからリエが家族やいろんなことを引きずって生きていくこと、そしてその重みに負けず、人生を歩んで行くことを表現しています」
Qこれからご覧なる方へメッセージを!
ヤン・イクチュン「韓国人も悩む近現代史の一つです。歴史が土台となって作られていますが、過去を忘れて生きることはできません。現在と過去を融合させて未来を作ることが私達の役割ではないでしょうか。この作品がみなさんの考ええるきっかけになってくれたらいいと思います」
井浦「すぐに答えがみつからない作品ですが、何かを感じていただければ良いと思っています。公開されたらまたぜひ劇場でご覧ください。お芝居や物語を生かしてくれる音もすばらしいです。ぜひ堪能してみてください」
安藤「監督は『ディア ピョンヤン』で北朝鮮への入国禁止になったにもかかわらず、この作品を作りました。その覚悟はすごいと思いました。この作品で監督は変わりましたか?」
ヤン・ヨンヒ監督「『ディア ピョンヤン』では謝罪文を要求され、その謝罪の代わりに『愛しきソナ』を作ったんです(笑)。政治や国に興味を示さなかった私が家族の存在で、興味を持つようになったのですが、家族を描いたことにより家族と会えなくなるという矛盾。反抗しているわけではないんですけどね。家族がいるから我慢するということは親世代がやってきたので、私は家族を守るためには、作品を通して、家族をオフィシャル化して守っていこうと思います。普通のことが普通にできるようにないたい。それだけです」
映画「かぞくのくに」は8月4テアトル新宿、109シナマズ川崎ほか全国順次ロードショーの予定。この夏ぜひ観ていただきたい何かを感じ取れる作品です。
◆かぞくのくに公式サイトhttp://www.kazokunokuni.com/