リュ・スンワン監督来日!「ベルリンファイル」公開記念 座談会

 『ベルリンファイル』日本公開を記念し、リュ・スンワン監督が来日。6月18日(火)新宿LEFKADAにてトークショーを開催。外交や軍事に精通したジャーナリストである黒井文太郎氏、木村元彦氏と共に国際情勢を踏まえ、映画『ベルリンファイル』について熱く語っています。

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特別試写による上映終了後、興奮冷めやらぬ観客の前に登場のリュ・スンワン監督が「皆さんにお会いできて大変嬉しいです」と挨拶。そして黒井文太郎氏、木村元彦氏とすぐに深いトークへ。
 
――観客へ一言お願いします
リュ・スンワン監督:この作品を観てくださってありがとうございました。今回の来日で取材を受けて感じたことは日本の方のこの作品に対する理解度が高いということです。それは、日本の皆さんが南北の情勢に感心を持ち、敏感に見てくださっているからだと思います。本日、このように理解度の高い日本で座談会を開いて下さり私にとってもとても有益なものになると期待しています。
 
――映画『ベルリンファイル』をどのように感じ取りましたか?
黒井:ストーリーと人間ドラマのバランス、フィクションであるがモチーフかしっかりしているという意味でのリアリティーの2点が非常に面白かったです。
構成が崩れないようクローズアップされ過ぎずに男女の物語があり、韓国のドラマや映画にありがちなメロウなバラードが流れるというようなことが意識的に排除されているんだろうなと感じ取れることやクライマックスの戦闘シーンでは微妙な友情、男と男として相通ずるものがあっても表さないというようなところにバランスの巧さを感じました。
 
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監督:私自身韓国映画などでのロマンスのシーンで流れる甘い曲が苦手だということもあります。この映画を撮る時に専門家が観た時に事実に近いと思ってくれることを願っていたので黒井さんがリアリティについて言及して下さり光栄です。
この映画の重要なことは一見、党に対する忠誠心や信念がすべてと思っていた男がもっと大切なもの、それは自分と一緒に暮らしていた愛する人だったということを知るということです。甘いラブストーリーになっていなかったのは、フワフワしたようなラブコメディが唯一映画の中で苦手だからということもありますね。
 
木村:やはりバランス感覚の良さが印象に残りました。北朝鮮の人物描写など偏って描かれる映画がある中、北朝鮮の人物を中心に描いていることの監督の意義、また同時に冒頭のブランデンブルク門のショットなどからベルリンで撮っているのは監督の統一を希求されてのことからだったのでしょうか?
 
監督:そうですね、北朝鮮の人物描写ではどのようにバランスをとるべきが悩みました。韓国の大衆文化の中で北朝鮮の人物を人間的に描写し始めたきっかけとなったのは映画『JSA』からだと思います。映画『シュリ』でも魅力的な北の軍人が出てきましたが「悪」としての存在だったので人間として描くには限界があったと思います。私は北朝鮮の人たちはどういう体制であれ、私達と同じ血が流れ、感情を持っているということに重点を置いて作りました。
ベルリンで撮ったのは正しく木村さんの仰る通りで、今の時代は冷戦が終わった後だが、依然としてイデオロギーの冷戦の中で生きているという人がいるということを考えてみたいというのがこの映画を作りたいと思った理由の一つです。このようにじっくりと深く映画を観てくださってありがたいです。韓国映画でベルリンを舞台にしたものは、今までにも1991年に海外入養児の悲劇を描いた『ベルリンリポート』(パク・クァンス監督)このがありますが、このようなことを踏まえた映画でははじめてでしょう。
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――韓国映画が北朝鮮を描いてきた多様性についてどう考えますか?
 
監督:私の映画作りは私自身の個人的感心、興味からで韓国映画史を考えて作ったことはありません。海外の方からそうみえるのは2000年代になり、北朝鮮を扱う映画が増えたからだと思います。1980年代は南北硬直した政治、文化の時代で90年代にそれが少し和らぎ芸術家も動きやすくなった。その流れを汲んで2000年代に噴出した感じでしょうか。
また、常に映画産業は新しいモチーフを探しています。その中で北朝鮮は新しいモチーフと言えるでしょう。
 
――冒頭のシーンの北朝鮮、韓国の諜報、ブローカーとかなり混乱した状況をモチーフにしたのはなぜですか?
 
監督:まず、登場人物ですが海外で活動している北のスパイには南の監視がつきものです。そして、実際に起こり得るものをリサーチし、中近東のこともかなり調べました。しかし、実際に特定の国名を使うことは不可能の為、団体名に変え遠まわしな表現にしましたが、
北朝鮮と中近東は実際に今でもそういった取引が行われているとリサーチできたので、映画に取り入れることにして、冒頭のシーンができたのです。
 
黒井:冷戦後世界のスパイ映画で銃撃戦は描かれにくくなったと思いますが、アクションにしやすいのは中近東でしょうか?
 
監督:そうですね。外国で銃撃戦を撮影するのが難しいことはわかっていましたし、テロという描写を本格的に入れてしまうのは、私の映画の本質として描きたいものから外れてしまうと思い、現実的にありえるのか、または映画的にありえるのか妥協点として映画的にありえるリアリティを考えこのような冒頭のシーンになったのです。
 
木村:冒頭のシーンはこれから何が始まるのかという期待が強くよかったです。ベルリンが舞台となる必然がここにあった。壁のあった頃のベルリンのこともかなりリサーチされたと思いますし、冷戦当時の西側はかなりリベラルであったし、そのようなことを考えますとその当時へのオマージュのようにも思えましたね。
 
監督:아이고〜!(と思わず声を上げる)そこまで、思い及ばなかったところもありますが(苦笑)リサーチをしながら、羨ましいと思ったことがあります。それは冷戦当時から東西の行き来があったということです。
 
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 ――これまでもアクションを撮ってきた監督ですが、今回のアクションの面について教えてください。
 
監督:今回重要視したのは「専門家のアクション」であることです。子供の頃から人を殺すための訓練を受けてきた人のアクションになるように目指しました。それは銃撃戦にも及びます。また、武器を使わず、身体だけを使うシーンでは北朝鮮の軍隊や諜報機関で訓練されている「撃術」を研究し、使用しました。銃撃戦では実際に行われたらと空間を考えながら撮影したのでかなり時間が掛かりました。
 
――韓国のアクションものではなく、元CIA暗殺者が主人公の『ボーン』シリーズを連想させましたが?
 
監督:スパイ、ベルリンということで、そのように言われることはわかっていたので悩みました。そして、私がアクションを撮る上で第1原則にしたのはアクションがおかれている状況をしっかりと見据え、正直に撮るということです。例えば、よくアクションを撮る場合カメラを揺らしたりすることが多いですが、そういうことはせずしっかり撮り、正確に編集することに重点を置きました。
また、観客は登場人物の苦痛をそのまま感じることができるように、工夫しています。映画をじっくり観てもらえるとわかりますが、倒れた先は突起物や岩など痛みをさらに感じる場所が多くなっていますよ。
韓国のある評論家はこの映画で一番の主役はハ・ジョンウではなくハ・ジョンウの背中だと言ったほどです。アクションのディテールのこだわりは、撃術を活かし武器がなくなった最終的には獣のように戦う姿を描きたかったところです。
 
黒井:実際に北朝鮮では工作員と戦闘員と分かれていますから、このように訓練されているでしょう。北では様々な軋轢によりトップから下の者まですべてがサバイバルな状況であり、劇中の悪の象徴となっている親子も、このようなサバイバルの中どうしようもなく生まれてきた存在だったと思う。
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――キャスティングについて聞かせてください
■ハン・ソッキュについて
監督:台本を書いた時にはハン・ソッキュのことは考えませんでしたが、起用が決定してからディテールを書き直したりしているうちに、これは『シュリ』の10年後を描いているかもと考えるようになりました。過去の自分と似た主人公たちに会うという流れになるのではないかと。
 
■実弟でもあるリュ・スンボムについて
監督:台本や人物を解釈する力が非常に優れている俳優です。台本を書いた私でさえ見落としていたところまで、注意深く観察しています。また、現場で役になりきる集中力がすごく、今回実際に北朝鮮の人にアドバイザーとして参加してもらいましたが、北の方言や行動の仕方が一番近かったのは、リュ・スンボムだと言ったんですよ。
 
■ハ・ジョンウについて
監督:彼はいい意味で気持ちを緩めて演技をするタイプ。リュ・スンボムはストイックに追い込みながら演技するタイプなので、まるで水と火のようで二人の俳優を見守る楽しみがありました。いいシーンが撮れた時には理想的な組み合わせですね(笑)
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――北朝鮮の描き方に世代での違いがあると思いますか?
 
木村監督はパク・チャヌク監督など所謂386世代の監督とは違い、1つ下の世代ですがそのことからか一歩引いた描き方をしているように思えますがいかがですか?
 
監督:私は冷戦が終わった時代は10代で、上の世代とは受け止め方は違うと思う。しかし、高校ではまだ軍事訓練を受けた世代でもあり、どうあれ統一を願う上の世代、統一を願わない人の多くなった若い世代の中間であり両方の均衡を保たなければならないと考える世代です。統一には政治的パラダイムではなく経済的、民間的でなければならないし、具体的でなければと考えますが、私自身統一を望んでおり、その理由の1つはは汽車で南北のつながった旅をしたいからです。2つ目は韓国では開発されてしまい時代劇を撮るような場所がかなり減ってしまいましたから映画のロケーション地が増えるということです。韓国語を話す人が増えることでマーケットとしてもよいですよね(笑)
 
――そういう意味では若い世代にも理解しやすいストーリーですね。
 
監督:この映画は南北問題が描かれているので、政治的にとられやすいけれど、あくまでもこの映画は人が人を理解することで解決できる問題としてとらえてほしいということです。個人と個人が連帯してそういう関係になれたらと思っています。
 
最後に観客から続編の予定はないか質問されると、笑いながら「これは、韓国公開時、また他の国、そして今回のプロモーションで一番多かった質問です。しかし、私はこの続編を作る気持ちはありません。映画は終わっても、登場人物の人生は終わっていません。その先は観客に作ってもらいたい。そして、応援してほしい。韓国の現実について考えてほしい。観客の皆さんたちの深い洞察に感謝します。ありがとうございます。」と締めくくった。
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 タイトル: 『ベルリンファイル』
監督・脚本:リュ・スンワン(『生き残るための3つの取引』) 武術監督:チョン・ドゥホン(『G.I.ジョー バック2リベンジ』)
キャスト:ハ・ジョンウ(『チェイサー』)/ハン・ソッキュ(『シュリ』)/チョン・ジヒョン(『猟奇的な彼女』)/リュ・スンボム(『クライング・フィスト』) 上映時間:120分
7月13日(土) 新宿ピカデリー、丸の内ピカデリー他
全国ロードショー
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7月13日(土)より新宿ピカデリー、丸の内ピカデリー他全国ロードショー!


 

 
 

 

 

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