<東京国際映画祭> 「27℃-世界一のパン」Q&A

10月19日、第26回東京国際映画祭「台湾電影ルネッサンス2013」の作品として「27℃-世界一のパン」が上映され、本編終了後にリン・チェンシェン監督とのQ&Aが行われた。東京国際映画祭は「浮草人生」から9年ぶりというリン監督。ここ数年はドキュメンタリー作品が続いていたが、久々に劇映画にカムバック。パンの世界大会で優勝した台湾が誇る実在の若きパン職人、ウー・バオチュンの半生を描いた本作を引っ提げ、東京に戻ってきてくれた。 lindao3.jpg

――ご自身もちらりと出演されていましたね。
主人公のバオチュンが新しい店を探している時、店主とケンカして「もう辞めてやる!」と捨てぜりふを吐く職人の役を演じています。実は私自身も13年間パン職人をして映画監督に転身したんですよ。だから、辞めてやる!というせりふは自分をネタにした冗談でもあります(笑)。
 
――道理でパン作りのディーテイルが細やかでした。
私が職人だったこともありますが、主人公のモデルになったバオチュン本人が現場にやってきて技術指導をしてくれたことが大きかったですね。特に世界大会のシーンは、バオチュンのおかげで専門的なことまで細かく正確に描け、だからこそ感動的な仕上がりになったのだと思います。
 
――バオチュンにパン作りの指導をする師匠の役で小林幸子さんが出演していました。
東京のある友人が紹介してくれてバオチュンにパン作りを教える日本の師匠にキャスティングできることになったんです。小林さんの写真を見て、歌を聴くと、内に秘めたものを強く感じました。実は男性の予定だったのですが、小林さんに演じていただくことにしました。制作費が限られているので2日の撮影日程を延ばせず、1日目から12時間に及ぶ撮影をこなしていただいたのですが、大丈夫よ、と言ってくださって、ずっと役に入り込んで見事に演じてくださり、本当にプロフェッショナルな方だと頭が下がりました。
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――小林さんのことは、ご存じでしたか?
いいえ。小林さんの撮影が終わった途端、カメラマンがサインを求め、やたら焦っているんですよ。話に聞くと、ご両親がファンで、サインをもらえなかったら帰ってくるな、と言われたそうで(笑)。それで初めてとても偉大な歌手だと知ったんです。そんな大歌手がこんな小さな役に入り込んでくださって、感謝しています。
 
――ウー・バオチュンを題材に選んだ理由は?
2つあります。まず、同じパン職人をやっていて、共に貧しい家庭で育ったという自分との共通点があることです。バオチュンは屏東、私は台東の出身。貧しい境遇を重ね合わせていたのかもしれません。そして、もうひとつは、この作品を通じて伝えたいことがあったからです。田舎の貧しい境遇の子が大都会に出てくると、スマートに話せないし、服装も野暮ったくて、引け目を感じることが多いのですが、それでもなんとか未来を切り拓いて、前に進んでいく。こういう若者を描くことで、まじめに一生懸命やれば自分の世界を切り拓け、社会に貢献できる人間になれるよ、と言いたかった。
 
――台湾の社会に変化を感じますか?
はい。ここ十数年でしょうか、昔は学歴ばかりが偏重されていましたが、プロの世界にはいろいろあるのだと、みんながわかってきました。たとえばパン職人、料理人、ヘアスタイリストなど、いろんなプロがいますよね。仕事に気持ちを込めて精進すればプロへの道が拓け、バオチュンのように日本にパン作りの勉強に来るなど、さらに精進すればもっと上を目指せる。台湾も一生懸命やれば報われる社会に少しずつ変わってきている気がします。
 
――どこまでがフィクション、どこまでがノンフィクションですか?
バオチュンの家庭環境、仕事については、ほぼ事実に従って描いていますが、恋愛の部分には虚構を加えています。というのも、貧しい家の出のバオチュンをふった女性として、ネットで叩かれたりしないよう守る必要があったからです。ある企業家の令嬢なのですが、実際は音楽ではなく経済を専攻しています。母親が交際に反対していたのは本当ですが、ふたりが別れたのはセーヌ河のほとりではなく、パリのコンクールの前だそうです。彼女がどの企業家の令嬢かは、検索できないよう、うまくカモフラージュしてあります。
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――パンの師匠は実在の人物ですか?
本作では2人に集約していますが、実際は4人います。ちょっとコミカルなコンクールのライバルとは、あんなふうに険悪な仲ではなく、コンクール後にとても仲良くなったと聞いています。
 
――バオチュンは師匠にとても感謝しているそうですね。
パンのコンクールで優勝したこともある日本の師匠は、彼に「私が持っている技術は全部教えてあげるけど、きみが将来、パンの世界コンクールで1位になったら、僕は売国奴になってしまうね」と笑って話したそうですが、自分の利害を考えず、本当にパンを愛する職人に自分の技術を惜しみなく伝授する。バオチュンはその姿勢に感動し、感謝していると話していました。
 
台湾というと、つい台北を中心に考えてしまいがちだが、農村部との貧富の差はまだまだ激しい。そんな逆境を覆し、パン職人として世界のトップに立ち、台湾の英雄になったバオチュンのサクセスストーリーは気分爽快! 観る人を元気にさせるものであった。最近は公用語の国語と呼ばれる北京語ではなく、台湾語のせりふが多い作品が増えているが、本作もその例に漏れない。台北以外の台湾の「今」を感じさせてくれる作品と言えるだろう。
 
 
 
 


 

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